博士の愛した数式/小川洋子

博士の愛した数式

博士の愛した数式

博士の愛した数式 (新潮文庫)

おもしろかったー!このために小川洋子を読み始めたようなものなので(笑)。ようやく達成。本屋大賞取る前か後か、品川の本屋で1ページ目だけ読んでおもしろそうだと思ってたらあれよあれよと映画だ何だ…という感じだったですな。回想終了。
読了後第一声→「小川洋子こんな話書けるんだ!」。「そしてみんなそのまま暮らしていきました」的な終わらせ方が出来たのかという驚き。書いている世界を、壊すために書いている、壊すまでを計画して書いている、書いている途中で壊したくなる、結果的に壊れた、実際どういうつもりで書いているのかは存じませんが今までの作品にそういう匂いが共通してたと思うので、今回のこの終わり方は割と驚き。今まで読んでて、この人は万人受けしなそうなのにと首を傾げてたのですが、非常に納得。こういう空気で続いてそう終わるのかー。なるほどねー。こりゃあ受けるだろうなあ。と。
毎度繰り返される「消失」は、今回最初から最後まで存在し続けたし、老人の描写の容赦なさとか、やっぱり食べ物について何らかのあれがあるのかしらとか、文章も内容も細部も小川洋子だなあとは思うのですがね。この空気は今回が特別なのか、今後全部こうなるのか、どうなのか…。どっちも好きですが、「そしてそのまま暮らしていきました」を書ける作家はたくさんいるだろうけど、これ以前のあの空気を書ける作家ってそうそういるもんじゃないよなと思うと、もしこのまま進むのならばちょっともったいないのかなあとも。読みやすさも読後感の良さも断然こういう話なんですけどね(笑)。
<ネタバレ>少年ルートの聡明さが心に残ってるのです。博士の記憶のために嘘をつくルートはもちろんですが、一番はやっぱり「博士を疑ったこと」を怒るシーンかなー。先にフェルマーの最終定理読んでるから、数学についての記述は比較してしまうわけですが、理解できた気になる(重要)のは段違い(笑)であちらの方が上だけど「数学とはかくも美しい」を描かせたら迷わずこっちだ…。あとは「新しい家政婦さん」という一文が好き。博士のメモは簡潔でわかりやすい。「僕の記憶は80分しかもたない」。</ネタバレ>