江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師

江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)

江戸川乱歩全集 第6巻 魔術師 (光文社文庫)

『通俗小説』と割り切ってる感がとても楽しい。「リアリティがない」とか、「現実にありえない」とか、そういう評価をされてしまう現代じゃ売れないかもなあ。辻褄も本当に合ってるのかわかんねーし。でも、作品の魅力はそういうところじゃないんだよ!ってのがよくわかるよなって思う。
湯けむり温泉殺人事件とか、遺産・愛憎劇な動機とか、探偵と刑事が懇意で刑事が相談にやってくるとか、そういうなんというか「前時代的」と言えばいいのかな、そういう設定はこの時代からやってんだなーってのが乱歩読んでるととても面白い部分。
いまの評価で言うと、後出しご都合設定だし、探偵は超人だし、アンフェア極まりないけど、でも好き。あとは、通俗!って割り切るとこんなにグロ要素が少なくなるのは驚嘆する。まだ素人探偵って書かれてるけど今後どんどん明智が超人になってくのだよなー。知らんけど。(少年探偵とか読んだことない)
当時の反応はどうだったのか知りたかったんだけど、巻末の解説を読んでなんとなく把握。『大衆』には大うけであったと。よく考えると今だって「リアリティがない」とか、「人間が描けてない」とか、「アンフェア」とか言うのは『大衆』層ではないよね…。思い出すのは容疑者Xの本格云々ですけど、大多数の人は本格だろうがなんだろうが興味ないしそんなことは関係なく売れるのだ。そういう感想もあったけど、一部であったから「乱歩は人気作家」という部分だけ後世に伝わってそう、と思った。
吸血鬼だって、読者を騙すためといよりその場しのぎで書き続けてのどんでん返しだもんな明らかに。そりゃ読者驚くよ。語り手が出来事を隠し過ぎ!ミステリーではない!とか怒られるレベル。明智は超人になり、事件はそこそこ猟奇的で、展開は二転三転、昨日まで赤かったものが実は黒で更に実は存在しなかった!みたいなことが普通に起こり、派手なアクションも満載で、そりゃ楽しいよね、と書いて気付いたけど大場つぐみ的だねこれ。やはりベタなものは再生産され、そしてうけるのだなー。